2010年1月5日火曜日

Krencker und Zschietzschmann 1938


「シリアのローマ神殿」という題の本。実際にはシリアとレバノンとの間に拡がるベカー高原を中心として、点々と両国のあちこちに残っている古代ローマ時代の神殿、その他の遺構を報告しています。
バールベックはそのベカー高原の中心に建てられたとてつもない大神殿で、もちろん別扱いとなり、この本では扱われません。バールベックに関する建築資料を補足するために書かれた2巻本。

テキスト編に収められている説明図は400枚を超えており、筆者たちの力量を伝えています。復原図も適宜作成されており、この作業量はすごい。建築調査は大変であったはず。

Daniel Krencker und Willy Zschietzschmann,
Römische Tempel in Syrien.
Archäologisches Institut des Deutschen Reiches,
Denkmäler antiker Architektur, Band 5.
2 Bände. (Text und Tafeln)
(Walter de Gruyter, Berlin, 1938)
xxv, 297 p. + vii, 118 Tafeln

図版編の最後の2枚の図面集は、縮尺を揃えて各遺構の平面図を並べて見せており、こういう提示の仕方をしないといけないんだと反省させられます。比較的大きなもの3つの基壇の規模はほとんど同じであるようにうかがわれ、規格のようなものが存在していたのではないかという点を疑わせます。

小さい建物を扱う場合のメリットというのは、少人数の隊でもじっくりと調べることができるという点で、ここでも随所に挿入された詳細図や写真から、足早に駆け回ったであろう調査の合間に、よく見ることがなされた跡を看取できます。エジプト様式を持つ大きな祭壇も報告されていて、大いに興味が惹かれるところ。

小神殿などを扱う書籍ですが、古代ローマ建築の豊饒さの片鱗がここでも明瞭に伝わる内容です。
冒頭にはO. PuchsteinB. Schulzへの追悼献辞があり、この2名はバールベックの報告書の執筆を、Krenckerとともに進めた人たち。古代エジプトのカルナック大神殿の報告書を出すような企画ですから、その苦労は並大抵ではなかったと思われます。
日本で喩えて言うならば、奈良六大寺大観の建築報告書を書く、そういうことに相当するでしょうか。

ドイツ隊による調査の成果を、後年になって纏め、出版した経緯が序文で書かれていますけれども、この過程の途中には第一次世界大戦を挟んでおり、ドイツ人研究者たちによる粘り強い姿勢を垣間見ることができます。
なお、1978年には再版も出版されました。

イタリア人研究者のL. クレマも古代ローマ建築に関する分厚い本をいくらか遅れて書いており、当然のことながら、この2巻本に目を通していることが分かります。この人の本(Crema 1959)もすごい。
D. クレンカーの名前は、Schiaparelli 1927でも出てきます。

0 件のコメント:

コメントを投稿