2010年1月13日水曜日

Jacques (and Freeman) 1997


カンボジア・アンコール遺跡の解説書はたくさんありますが、日本で出ているものは観光の紹介に偏りすぎていたりする本が多く、あまり使いものになりません。この本を書いているクロード・ジャックは、アンコール遺跡の編年研究に筋道をつけたG. セデスの弟子で、碑文学者。プレ・アンコール時代から13世紀以降までを包括して取り扱っており、カラー写真が豊富に収められています。

Claude Jacques, photographs by Michael Freeman,
translation by Tom White,
Angkor: Cities and Temples
(Asia Books, Bangkok, 1997)
319 p.

平面図が多く紹介されているだけでなく、タ・プロームやプレア・カン、バイヨンなどについては複数の図面を用い、増改築の過程を説明しています。他の本では見られない、大きな特色です。
ただバイヨンについては建造過程の解釈に誤りがあり、J. デュマルセやO. クニンの考察を無視していますので、注意が必要。ジャックとデュマルセたちとの意見の相違は、第一回廊と第二回廊との間に立ち並んでいた16棟の「祠堂」の扱いに顕著です。Clark (ed.) 2007も参照。ジャックはこれらの創建を初期にまで遡らせたいようですが、痕跡からはそのように考えることのできる余地がまったくありません。

アンコール地域の遺構だけを扱っているため、サンボール・プレイ・クックやコー・ケル、あるいはコンポン・スヴァイのプレア・カン、プレア・ヴィヘア、バンテアイ・チュマールについては触れられていません。これらやカンボジアの外にあるピマイなどの遺跡については、また別の本が必要となります。出版社は異なるものの、姉妹巻として扱われるものに、

Claude Jacques and Philippe Lafond,
The Khmer Empire:
Cities and Sanctuaries from the 5th to the 13th Century

(River Books, Bangkok, 2007)
279 p.

があり、こちらもカラー写真がふんだんに掲載されています。

アンコール遺跡に関するガイドブックでお勧めしたいのは、

Jean Laur,
Angkor: temples et monuments
(Flammarion, Paris, 2002)
391 p.

で、英語版も出版されています。著者は建築家で、アンコールにおける保存修復にも携わりました。100ページあまりを費やして、最初にクメール文明の流れを説明し、石材の運搬経路を地図で示してもいます。こういう図は他の本には載っていないはず。このため、O. クニンの博士論文にもこの箇所が引用されているわけです。
クメールの遺跡にはすべて番号がつけられているのですが、それが明記されているのもLaurの本の特徴です。マイナーな「486」と呼ばれる遺跡も平面図が掲載されています。アンコール・トムの域内にあって、ラテライトで造られた基壇が後に砂岩で覆われている面白い建物。

なお、「踊り子の綱」として知られるプラサート・スープラの年代は13世紀ではなく、もっと遡って12世紀であろうと今日では判断されます。

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