2008年12月30日火曜日

Dodson and Ikram 2008


古代エジプトの墓を包括的に扱った初めての新刊書。数千年にわたる歴史の中で、墓の造り方がどのように変わっていったのか、また身分の違いでどの程度、墓の形式が異なるのかを通覧しています。

Aidan Dodson and Salima Ikram,
The Tomb in Ancient Egypt:
Royal and Private Sepulchres from the Early Dynastic Period to the Romans
(Thames & Hudson Ltd, London, 2008)
368 p., with 402 illustrations, 28 in color

序文でも触れられている通り、これまでは墓のタイプや時代ごとに述べられることが多く、全部を通じて語る試みはありませんでした。この意味では確かに画期的です。

死後の世界を重視した古代エジプトでは、墓というものはたぶん特別で、まず支配者によって凝った造りがなされました。その後に展開を遂げ、出土例も増加し、形式も数多くて豊かであったから、エジプト学ではおそらく最初から形式や時代によって別々に研究が開始されたと思われます。
これは、ピラミッドをやる人はピラミッドを調べるだけで精一杯だし、新王国時代の王墓の研究者は王家の谷に専念し、また私人墓をやる人はそれにかかり切りになるということを意味します。

この枠組は今日でも相当に強固で、それを乗り越えようと試みた本なのだと言えないこともない。テムズ&ハドソン社からは、すでに「コンプリート」シリーズが何冊も出ていますから、その延長上の企画という位置づけもあります。
ここでは時代として初期王朝からグレコ・ローマン時代まで、また形式としてはマスタバから始まって、ピラミッド、サフ墓を含む岩窟墓、空墓(セノタフ)、シャフト墓、神殿型貴族墓(トゥーム・チャペル)、その他一切合切の墓がヌビア地域をも含め、全部まとめて出てきます。

欲を言うならば、雑駁な印象がどうしても拭い難い。相互の連関が強く打ち出されていないからであるように感じられます。
新しいことが書かれていない、という不満を感じる向きが多いのでは。古代エジプトにおける墓の平面図が全部見たかったという期待も裏切られます。

しかし古代エジプト建築で葬祭建築を扱うとなると、これまで見つかっている遺跡の半分以上に言及せざるを得ないわけで、その線引きと、基本的な構成案との双方に難があったのではないかと疑われます。膨大な情報量の既往研究に、溺れかかっているようにも思われます。
入門書として活用されるべき図書。
書評がEgyptian Archaeology 34 (Spring 2009), p. 41に出ました。

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