歪んだ部分を含む本と言えないこともない、いろいろな意味で興味深い書です。
Peter Janosi (ed.),
Structure and Significance: Thoughts on Ancient Egyptian Architecture.
Osterreichische Akademie der Wissenschaften,
Denkschriften der Gesamtakademie, Band XXXIII.
Untersuchungen der Zweigstelle Kairo des Osterreichischen Archaologischen Institutes;
Herausgegeben in Verbindung mit der Kommission fur Agypten und Levante der Osterreichischen Akademie der Wissenschaften von Manfred Bietak, Band XXV
(Verlag der Osterreichischen Akademie der Wissenschaften, Wien, 2005)
xviii, 555 p.
本当は、この本を紹介するタイトルには単に、
(Festschrift D. Arnold) 2005
とか宛てればいいのかも知れないとか迷いましたが、それを逡巡させる何かがこの厚い本の構成の中にはあります。編集者のP. ヤノシの名を書誌として挙げたのはそのためです。
上記の書誌がとても長くなっているのは、ドイツ語系の刊行物でしばしば良くある話。ここではオーストリアにおける研究機関による刊行のシリーズ名が重なっているためです。
献呈論文集、あるいは記念論文集(Festschrift)とはそもそも何か、ということがあります。
普通は、これまでその先生にお世話になり、指導を受けてきた門下の研究者たちが本の企画をおこなって、各自の論考を新たに執筆し、それらを集成して取り纏めるという経緯を辿ります。
しかしこの本の場合は奇妙で、どういう訳か、アーノルドの奥さんによる最初の論文が一番長い。何と、70ページも書いてます。
本の目次の順番は幸か不幸か、姓のアルファベット順なので、アーノルドの奥さんの次にはアーノルドの息子フェリックスの論考が並んでいます。この両者による論文だけで100ページを超える。
まあ、普通は姓名の順であることが多いので、仕方がないところはあるかもしれない。
しかし僕はこれまでの中において、「フェストシュリフト」で家族による執筆論文が本の冒頭を飾り、しかもその分量が全体の1/5を占めるという本を、この20数年の間で初めて目にしました。たぶん、前代未聞だと思います。
で、アーノルド本人のbibliography、すなわち彼がこれまで何をやってきたのかという研究業績の紹介というものもまた、この本には一切、掲載されていません。
「皆さん、よく御存知でしょうから」
などと、編者のヤノシは序文にて、さらっと書いてます(!)。
こういう事態も献呈論文集としては、すごく珍しい。結局は、古代エジプト建築に知悉するごく少数の人間同士が読む本なんだから、ということを考えた末なんでしょうか。
個人的な興味としてビータックとカルロッティの論文には、大いに惹かれました。とても面白い。
編者のP. ヤノシは近年、盛んに重要な出版物を重ねている人物です。古王国時代の建築、特にピラミッドを詳しく知りたいという人ならば、この研究者の本に目を通すことが欠かせません。
本書は古代エジプト建築に関して興味を持っている人にとって、10年に一度出るか出ないかという貴重な刊行物。
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