全体は3つに分かれており、最初に玉座、次に椅子と腰掛け、最後に足置き台が扱われます。ただ文章量は均等ではなく、最初の4つの玉座を記した部分だけで、本文の半分以上を費やしています。
カラー図版が一枚もない点は残念。その代わりに、日本で開催されたトゥトアンクアメンの展覧会のカタログのカラー図版まで紹介されており(p. 63, note 9)、この学者が万遍なく目を光らせていることがうかがわれます。
M. Eaton-Krauss,
incorporating the records made by Walter Segal,
The Thrones, Chairs, Stools, and Footstools from the Tomb of Tutankhamun
(Griffith Institute, Oxford, 2008)
224 p.
建築家が実測して残した図面を報告の中に組み入れているのが特色です。このために各部の実寸値が分かり、例えば黄金の玉座の場合には全高が 104.0 cm、幅が53.0 cm、座の高さが51.7 cmであることが了解されます。古代エジプトで用いられた王尺の52.5 cmを意識して造られたことが一目瞭然で、35ページにはキュービット尺との関連が確かに書いてある。
でも深くは立ち入っていません。家具とキュービット尺との関わりの問題には、もう少しデリケートな議論が必要で、それを熟知しての対処。今後の詳しい検討が望まれるトピックです。
報告書を書き慣れた人の本だから、いろいろな目配りがされていることに気づかされます。たった30ぐらいの遺物しか紹介していない本なのに、コンコーダンス(遺物番号対照表)が4つも掲載されていますが、これはカイロ博物館での展示番号とJE登録番号、及びH. カーターによって振られた遺物番号がばらばらであるための処置。丁寧と言えば丁寧ですけれども、形式にとらわれ過ぎたやり方と見ることもできる箇所かもしれません。
ページネーションについては冒頭から図版掲載ページまでを通しで振ったり、見やすくする工夫がなされています。これは近年の出版形態に合わせたやり方ですが、一方でプレート番号に関しては相変わらずLXXXIV、などと記しています。
家具に白く塗料を施すことの説明に一節を設けるなど、家具をよく見ている人だという印象が残ります。詳細な註が付されており、玉座に触れている章だけでその数は150を超えます。河合望先生の論文が引用されている点にも触れておきましょう。
Svarthという人が古代エジプト家具を模型で造って紹介している綺麗な本があるのですが、不正確な点を挙げています。でもSvarthの本は、もともとそういう厳密なことをめざした本ではないし、この指摘はちょっと可哀想。
最後に扱われている箱が、はたして本当に足置き台かどうかは疑問なしとしません。運搬用と言われる取っ手が両脇についており、何に使われたのか、想像するのが楽しい遺物です。
古代エジプトの家具を扱った専門書の中で、重要な位置を占める重厚な内容の報告書。
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