2008年12月31日水曜日

EA (Egyptian Archaeology) 33 (2008)

EAの最新号。イギリスのEgypt Exploration Society(EES)が年に2回、発行している紀要です。カラー写真がふんだんに掲載されており、たいへん見やすく造られている薄手の雑誌。

Egyptian Archaeology (EA): Bulletin of the Egypt Exploration Society,
No. 33 (London, Autumn 2008)
44 p.

商業雑誌ではなく、学術団体がこのようにカラーページを豊富に用いる紀要を出しているというのはエジプト学では珍しい。ウェブサイトの拡充にも努め、また電子メールでニューズレターを送るようにもしました、と冒頭で触れています。EESの正規の年会費は57ボンドですから、10000円を超えますが、学割もあります。数年前から会費をクレジット・ カードで決済できるようになりました。

ロードス島で開催された第10回目のInternational Congress of Egyptologists(ICEと略記されます)の報告がまずあって、これはエジプト学者が数年に一回、世界中から集まってくる特別な祭典なので、1ページ半を充てています。

次に掲載されているのはアマルナ王宮のコム・エル=ナーナについての論考で、アメリカの大学の博士課程の学生が執筆しています。たいへん微妙な書き方をしていますが、現地におけるごく一部分の精査をおこなうことによって、この施設の名前を解明する文字資料を見つけ出しており、ケンプの推量が正しかったことが証明されています。発掘をおこなう調査隊長ではなく、成果を学生が単名で発表しているわけで、見えないところでのケンプやEESの後推しが感じられる内容。
書かれていることにはことさら新しい情報はないのですが、発表形式が面白かった。つまりケンブリッジ大学を退任したケンプやEESが、これからアマルナの発掘をどうやっていくつもりなのかが、ここでは暗示されているように思われます。

Notes and Newsの欄の最後では、世界のエジプト学者たちの異動をさらっと知らせており、こんなコーナーが設けてあるのも興味深い。イギリス人のウィットなのかもしれません。エジプト学の講座は狭くなりつつあって、数少ない研究教育機関の席を世界中の学者が、もう国籍などは関係なく、奪い合う状況なのだと言うことが良く了解されます。

フランス隊によるタポシリス・マグナの発掘報告では、図面表現の美しさに目を奪われました。錯綜する地表面の遺構、そして地下の諸室の様子をどのように描き分けるかが工夫されています。影を落として立体感を出しているのもうまい方法。
カスル・イブリムから出土したサンダルなどの提示も、非常に上手で感心しました。片方の足は足裏を地面につけていますが、もう一方の足はつま先立ちにしており、これによって履き物の裏面の状態も明瞭に見せ、復原された履き物の様子が良く了解されます。

書評の欄ではケイト・スペンスがローマーの"The Great Pyramid"を評しています。ローマーの提案しているクフ王のピラミッドの断面計画案には異論を呈しており、この評者は建築的な問題点をやはり良く分かっている人だという印象を受けました。僕も基本的にこの考え方に賛同します。
スペンスはセセビにおける調査を試みている研究者。セセビはアクエンアテンによる遺構があることで知られています。
彼女の博士論文は古代エジプト建築の向きについて纏めたもので、数年前にはピラミッドに関する論文をNatureに投稿し、注目を浴びました。

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