2008年12月24日水曜日

Herz-Fischler 2000


クフ王のピラミッドのかたちはどのように決められたのか。10以上ある諸説を数学者が根底から再吟味をおこない,妥当性を検証した書。
こういう本は珍しい。いくつかの説を紹介する本はあっても、実測値とどれだけの誤差があるか,また当時の数学の知識を踏まえての仮定は正しいのか、充分に考察を重ねたものは少ないからです。

Roger Herz-Fischler,
The Shape of the Great Pyramid
(Wilfrid Laurier University Press, Waterloo, Ontario, 2000)
xii+293 pp.

この本はエジプト学者にほとんど引用されていないけれども,問題点を整理している点で,とても重要だと思われます。結果として,いくつかの論には説得力があるものの、どれも完全には承服できない,と書かれているところが面白い。
ホームページをこの著者は開設していて、建築と数学に関する他の論考もそこで読むことができます。

http://herz-fischler.ca/index.html

筆者がこぼしているように(p. 164)、ピラミッドと絡めてよく語られる「セケド」 "sqd" (=seqed)という勾配の決め方は、当時の尺度など複雑な問題が絡み合っているため、エジプト学の専門分野内でもっぱら論議されることが多く,一般の人には縁遠くなっているのは事実だと思われます。
こういう指摘は重要で,「セケド」と呼ばれるものが専門家たちの間でのみ抱え込まれてしまい、情報が広がっていないという点が言われているわけです。

実はこの「セケド」は,日本の伝統的な木造建築を知る者にとっては単純な話で、1キュービットという基準の長さに対し,それに直交して別の長さを指定して傾きを与えるやり方に違いありません。酷似した方法は日本建築の屋根勾配の定め方でも出てきます。「4寸勾配」といったら、水平に1尺=10寸を取り,垂直に4寸下がった傾きのことで、大工さんなら誰でも知っている方法です。
「セケド」という方法がリンド数学パピルスにしか見当たらないものですから、エジプト学研究者は概念をきわめて限定して扱っているのですけれども、本当は非常に単純で、また普遍的な方法だと考えていいと思われます。

「セケド」の概念が、もっと一般的な方法であったのではないかということは近年,気づかれつつあります。
「セケド」については現在,下記の文献がおそらく最良です。

Annette Imhausen,
Agyptische Algorithmen: Eine Untersuchung zu den mittelagyptischen mathematischen Aufgabentexten.
Agyptologische Abhandlungen 65
(Harrassowitz Verlag, Wiesbaden, 2003),
pp. 162-168, "sqd-Aufgaben."

この執筆者もホームページを開設しており、そちらも興味深い。

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