2008年12月19日金曜日

Verner et al. 2006


ピラミッドに関する最新の報告書ということであれば、エジプトのアブシールを発掘中のチェコスロヴァキア隊による、このラーネフェルエフのピラミッドを扱った刊行物になるかと思われます。

Miroslav Verner et al.,
The Pyramid Complex of Raneferef: The archaeology.
Abusir IX, Excavations of the Czech Institute of Egyptology
(Czech Institute of Egyptology, Faculty of Arts, Charles University in Prague; Akademia, Publishing House of the Academy of Sciences of the Czech Republic, Prague, 2006)
xxiv, 521 p.

大規模な複合施設の調査報告書を纏める作業は大変で、ここでも序文で続巻があることを記しています。500ページ以上を費やしながら、触れることができなかった点がまだたくさんあるということです。ピラミッドに付設された葬祭殿は後に増築されているため、さらに輪をかけて話は複雑となります。

内容はまず考古学的発掘調査の報告と、出土遺物に関する報告とのふたつに分かれており、後半の出土遺物の方が約2/3を占めています。
前半部を締めくくる章、「古王国時代のピラミッドのかたちと意味」(pp. 172-184)は、重要な話をしていて詳細にわたる検討が必要なので、ここには意見を書きません。ただラーネフェルエフの墓は、最初はピラミッドとして建造が開始されたにも関わらず、結局は四角の平たいマスタバ状の構築物に変えられたらしく、この点はネチェリケト王の階段ピラミッドと順序が逆です。興味が惹かれるところです。

最後の章は王のミイラ片の分析(pp. 513-518)で、ピラミッドから実際に王の遺体が発見されている例がきわめて稀であるため、ピラミッド学では今後、おそらく注目がなされる部分。

全体の目次立てから見るならば、まずは良く纏められた報告書であるという印象が伝えられる一方で、しかし急いで出版されたらしく、充分な校正がおこなわれなかったらしい痕跡が散見される点は残念です。
「序文」では、19世紀の先行研究であるペリングやレプシウスによる図版を紹介していますけれども、これらは別の章を立てて「既往の研究」として扱うべきだったのではとも感じます。記述内容が少なかったので、こうした対処が選ばれたのでしょうか。
184ページの、ピラミッド複合体に関する主構造物の寸法表が抜け落ちたために、別刷の訂正紙が添付されている点は致命的です。前述した「古王国時代のピラミッドのかたちと意味」の章そのものが、あとから急遽、書き加えられたのではないかという疑念を招くからです。当然、読み手としてはその点を含みながら読み進めることになります。

また188ページの下方においては、"see also pl. 00"という意味不明の記述も見られ、たぶんカラー図版への言及を意図したのでしょうが、校正が間に合わなかったようです。328〜329ページの間に挿入されたこのカラー図版に対しては、ページが振られていないから、これを探すのに不便きわまりありません。まとめて巻頭あるいは巻末へ回すべきでした。

520ページには、"Index od Selected Names"と書かれています。インデックスは最後に作られる部分であり、目が行き届かなかったということだと思います。
細かい配慮が不足しているのではと、いくつか気になる点がある書物でした。面白いピラミッドであるだけに惜しまれます。
なお書評がMichel Valloggia, JEA 94 (2008), pp. 327-29で掲載されました。

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