2009年1月4日日曜日

Kemp 2006 (2nd ed.)


大まかには古代エジプト文明の通史に含まれる論考ですが、経済人類学など現代思想の成果も取り入れているため、類書とは一線を画しています。
副題が良く本書の性格をあらわしており、ひとつの文明がどのように誕生し、展開を遂げたのかを掘り下げて論じています。

Barry J. Kemp,
Ancient Egypt: Anatomy of a Civilization
(second ed., Routledge, London, 2006)
x, 437 p.

初版は1989年で、同じ出版社から刊行されました(vii+356 p.)が、この第2版では大幅な改訂と増補が施されました。
この改訂はきわめて重要で、まずはアマルナに関する記述が大幅に削除されています。自分が発掘調査隊長を務めていた遺跡について直接詳しく書くことを控える結果となっており、代わりとして冒頭部分には「古代エジプト人とは誰であったのか?」が加えられました。
ケンプの名を一躍高めたのは初期王朝における葬祭建築の分析でしたが、その視点の延長上をさらに充実させています。

古代エジプト研究に携わる学者の中でも、5本の指に入る論客によって書かれた著作。文献学上の資料をもとにした考察に時として偏りがちなエジプト学内の歪みを熟知した上で書かれていますから、さまざまな示唆に富んでいるのが特徴です。大学院博士課程の学生でも、あるいは読みこなすのが困難な側面を持っているかもしれない。

建築学的観点からは153ページの、古代エジプト建築の系統樹がもっとも注目されます。こういうものは断片的には言及されてきた経緯はあっても、これまで包括的には提唱されませんでした。平面が入れ子状にされている古代エジプト建築への注目も重要です。
また185ページの、アスワンの未完成のオベリスクに関する新たな解釈も非常に面白い。図のキャプションだけに短く記された、新しい観点。見過ごしがちですけれども、検討する価値のある見方。

本には謝辞がつきものですが、この人の場合、たったの6行です。
誰にも恩恵を受けなかったという姿勢が、ここでは密かに宣明されています。
ケンブリッジ大学での教員生活を終え、現在はカイロにも居を構えているという話があります。残る人生をアマルナ研究に捧げようとしているのかも知れません。
古代エジプト史を語る上で欠かすことのできない一冊。

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