2009年1月2日金曜日

Robins 1994


古代エジプトの美術を専門とする学者による書で、壁画に興味があるものにとっては基本文献となります。Goettinger MiszellenDiscussions in Egyptologyといった、比較的審査の緩い専門雑誌において多く考察を重ね、10数年経って集大成された本。

Gay Robins, drawings by Ann S. Fowler,
Proportion and Style in Ancient Egyptian Art
(Thames and Hudson, London, 1994)
x, 283 p.

しかしこの本を読むにはまず、イヴァーセンによる研究書を知らなければなりません。イヴァーセンによる、よく知られた本を批判している内容を持つからです。

Erik Iversen in collaboration with Yoshiaki Shibata,
Canon and Proportions in Egyptian Art
(Aris and Phillips, Warminster, 1975. Second edition
fully revised. First published in London, 1955)
94 p., 34 pls.

イヴァーセンの初版と再版とは内容が全然異なりますから、ここにも面白い問題が潜んでいます。1955年の論考があり、これを根本的に変える必要があってほぼ20年後に同じ著者によって再考がなされた本が出され、でもまだ不明なところがあったので、また約20年後に、今度は別の著者によって本が出たという経緯を踏んでいます。

問題は、未完成の壁画などでしばしば見られる下書きの格子線(キャノン・グリッド)で、これがどのような役割を果たすのかという点、古代エジプトの尺度であったキュービットとどのように関わるのかという点、そして時代による変遷があるのかという点です。
いずれも悩ましい問題で、本当のことを言うと、未だに良く分からない部分もあったりします。古代エジプトの尺度については、200年ほど、ああでもないこうでもないと言っているところがありますので。
古代エジプトの絵画におけるキャノン・グリッドについては美術史家のフランカステルも触れており、和訳された論文が出版されていますので、見る価値があります。

この本にはたくさんの分析図が収められており、それを見るだけでも楽しめます。
著者の夫は大学に席を置く数学者。一緒に論文を書いたりしていますが、下記の論文は古代エジプト建築の研究においてはきわめて重要な論考。リンド数学パピルスに出てくる、ピラミッドの勾配の決定方法であるセケド(sqd = seqedあるいはseked)の概念に関する拡張を考えています。

G. Robins and C. C. D. Shute,
"Mathematical Bases of Ancient Egyptian Architecture and Graphic Art,"
Historia Mathematica 12 (1985), pp. 107-122.

残念なことに、旦那さんは数年前に亡くなってしまいました。
この本の謝辞の最後には、「結婚したばかりの時に、夫から古代エジプトの尺度について聞かれ、それを契機にイヴァーセンの本を読み直すことになった。本書を夫に捧げたい」と記してあります。

カラー写真をたくさん収めた古代エジプト美術史の本も、彼女は大英博物館から出しています。これは欧米の大学で教科書あるいは副読本として広く学生に読まれているはずですから、持っていて損はありません。

Gay Robins,
The Art of Ancient Egypt
(British Museum Press, London, 1997)
271 p.

0 件のコメント:

コメントを投稿