2009年1月15日木曜日

Reeves 1990a and 1990b


N. リーヴスはイギリスのダーラム大学に博士論文を出して学位を取得しましたが、その内容は古代エジプトの「王家の谷」の総まとめで、これを執筆するため、どれだけの資料に目を通さねばならなかったのかは、下記の書の本文の前に置かれているページの分量を見れば分かります。博覧強記を誇る彼の方法が良くあらわれている本です。全部で400ページを超える博士論文の刊行物。

Carl Nicholas Reeves,
Valley of the Kings: The Decline of a Royal Necropolis.
Studies in Egyptology
(Kegan Paul International, London and New York, 1990)
xliii, 376 p.

ケガン・ポールから出されているこの「スタディズ・イン・エジプトロジー」のシリーズは重要。「アマルナの境界碑」や「カルナックにおけるアクエンアテンのセド祭」など、現在ではかなりな高額で取引されているものが少なくありません。

リーヴスのこの博士論文がたくさん売れたという話は聞いていませんが、しかし同じ年に「コンプリート・ツタンカーメン」を出版しており、これはもちろん彼が博士論文を書く上で収集した資料のごく一部を流用した内容。
最初はカイロから出版されましたけれども、イギリスのテムズ・アンド・ハドソン社が引き継ぎます。こちらの本はヨーロッパ各国語に訳され、類書がなかったために爆発的な売り上げを見せました。
これが「コンプリート」シリーズの始まりで、以後はピラミッド、神殿、墓など、たくさんの本が出されるようになり、いくつかは和訳もなされています。

Carl Nicholas Reeves, foreword by the Seventh Earl of Carnarvon,
The Complete Tutankhamun: The King, the Tomb, the Royal Treasure
(The American University in Cairo Press, Cairo, 1990)
224 p.

この2年後、彼はまた2冊の本を出しており、「ビフォー・ツタンカーメン」はハワード・カーターの前半生記を扱ったもの、また「アフター・ツタンカーメン」は王家の谷の調査に関する国際シンポジウムの記録です。いずれも博士論文の延長線上に位置する仕事。内容も出版社も異なるものの、題名に関連を与えて同時期に刊行するという方法がとられているのが興味深い。

Carl Nicholas Reeves and John H. Taylor,
Howard Carter before Tutankhamun
(The British Museum, London, 1992)
201 p.

Carl Nicholas Reeves (ed.),
After Tut'ankhamun: Research and Excavation in the Royal Necropolis at Thebes.
Studies in Egyptology
(Kegan Paul International, London, 1992)
xv, 211 p.

「コンプリート・ツタンカーメン」の成功を受け、彼の博士論文や国際シンポジウムでの成果をもとにしながら、一般向けに内容が手直しされたものが後年の「コンプリート・王家の谷」で、刊行はさらにその4年後でした。

Nicholas Reeves and Richard H. Wilkinson,
The Complete Valley of the Kings: Tombs and Treasures of Egypt's Greatest Pharaohs
(The American University in Cairo Press, Cairo, 1996)
224 p.

ここで最初に掲げた本と最後に挙げた本とを比べると、専門家向けと一般向けとで大きく構成を変えている点が一目瞭然で、面白いところです。両者の間に情報の質と量の差異がどれだけあるかということを確認できる例。エジプト学のあり方を詳しく見てみたいという場合、双方の本の作り方を見比べる作業から大きな示唆を受けることがあるかもしれません。
なお彼は近年、アクエンアテンに関する本も出版しています。

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