2009年1月14日水曜日

Dumarcay 1967-1973


アンコール・ワットと並び、アンコール地域で注目されるバイヨン寺院に関する報告書。著者はクメール建築のみならず、広く東南アジア建築を知る重鎮。特に1970年代、彼はたくさんの報告書を刊行しました。どれもフランス極東学院による調査が重ねられながらも、報告書が出ていなかった遺構ばかりです。
すでにH. パルマンティエが、この複雑きわまる構成を持つ寺院の概要を発表していましたが、それも自分の説を途中で訂正したりと、内容の把握には骨が折れます。しかしながらパルマンティエによる修正後の説をデュマルセは良く受け継いでおり、現在言われているバイヨンの建造過程の4段階説は正確には、パルマンティエ・デュマルセ説と表現すべきだと思われます。

Jacques Dumarcay,
Le Bayon: Histoire architecturale du temple: Atlas et notice des planches.
Publications de l'Ecole Francaise d'Extreme-Orient (PEFEO),
Memoire Archeologique III(-1)
(Ecole Francaise d'Extreme-Orient (EFEO), Paris, 1967)
11 p., 68 planches.

Jacques Dumarcay,
Le Bayon: Histoire architecturale du temple (Textes).
Bernard Philippe Groslier,
Inscriptions du Bayon.
Publications de l'Ecole Francaise d'Extreme-Orient (PEFEO),
Memoire Archeologique III-2
(Ecole Francaise d'Extreme-Orient (EFEO), Paris, 1973)
(iv), 1-76 p., 1-53 planches, 81-332 p., 54-72 planches.

最初に図版だけを出版し、6年後に文章編を刊行しています。あとで出された方には、バイヨンのあちこちに見られる文字資料の報告もなされており、こちらはグロリエによって執筆されました。アンコール・トムの城門が3つの建造過程を有する点に短く触れており、これも重要な報告。

パルマンティエとデュマルセの見方に基づき、さらに問題を展開させたのがオリヴィエ・クニンによる非常に分厚い博士論文で、

Olivier Cunin,
De Ta Prohm au Bayon, Analyse comparative de l'histoire architecturale des principaux monuments du style du Bayon, 4 vols.
(Nancy, 2004)
http://tel.archives-ouvertes.fr/tel-00007699

のURLで見ることができます。
「タ・プロームからバイヨンまで:バイヨン様式の主要遺構に関する建築史の比較分析」という題で、PDFで4冊分、総計200MBを超えます。プリンタで打ち出すのは一日がかり。バイヨン期に属する遺構群についての詳細な論考で、図版が多数収められており、専門家にとっては必見の書。バイヨンについてクロード・ジャックが唱えている説は、完全に排除されています。
このように、クメール研究に当たっては未刊行資料にも目を通す必要がある点は銘記されるべきで、エジプト学におけるデル・エル=メディーナ(ディール・アル=マディーナ)研究と似たところがあります。
デュマルセはまた近代文学と建築を取り結ぶ小さな本も書いたりしており、この人の器が示唆されます。

2009年1月5日に亡くなった桜田滋には、クメール建築調査の際にさまざまな面でずいぶんと助けてもらいました。日本国政府アンコール遺跡救済チーム(Japanese Government Team for Safeguarding Angkor: JSA)のシェムリアプの現地事務所の所長を務めた男です。高校の時から30年のつき合いでした。
黙祷。


2 件のコメント:

  1. 初めまして、西本さん。櫻田滋の親族のものです。偶然このブログを見ました。遺族も親族もあまりの突然に、受け入れることが出来ないのが今の状態です。本人も全く予期していなかったと思います。本当に惜しい男を失いました。桜田に言及して頂きまして、誠にありがとうございます。お礼で一筆したためました。今後も楽しく思い出して頂ければ、供養になると思います。失礼します。

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  2. 宮本さん、
    コメントありがとうございました。
    高校と大学が同期で、大学院修士課程では同じ研究室に進み、彼にはいろいろお世話になりました。
    本当に残念に思います。

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