註の振り方には2種類がうかがわれ、無理して全体の体裁を整えようとしていません。多くの執筆者たちから原稿を集める場合の本では、しばしば見られる形式ですが、特にこの本では豪華な顔ぶれが揃っており、文書の煩雑な手直しを避け、オリジナルの形式を尊重したと見ることができます。
抜刷の配布を考慮していないページネーションで、偶数ページから始まる論文も奇数ページから始まる論文も両方あります。
W. V. Davies ed.,
Egypt and Africa:
Nubia from Prehistory to Islam
(British Museum Press in association with the Egypt Exploration Society, 1991)
x, 320 p., 16 plates.
エジプトと地中海沿岸地域、あるいはエジプトと西アジアとの関連などはかねてより指摘され、古い時代から論じられてきましたが、ここではエジプトの南方に位置するスーダンとの関わりが注目されています。
現在ではスーダンに数十の外国調査隊が入っているらしく、これは今のエジプトが新たな発掘調査の申請を一切認めていなかったり、あるいは申請の継続が打ち切られていたりしている事情も、いくらか反映している様子。
スーダンの遺跡は近年、劇的にアクセスしやすくなっており、すぐそばまで舗装道路が整備されていると聞いています。
レプシウスの「デンクメーラー」(Lepsius 1849-1913; cf. Description 1809-1818)ではヌビア地域まで範疇に含めていましたが、エジプト学が深化するにつれ、ヌビア地域は次第に別扱いされるようになりました。
この地域を扱う専門雑誌としては、メロイティカなどが有名です。
Meroitica
http://www.meroitica.de/
さてこの本に掲載されている論考で興味を惹くものを挙げるならば、
F. Geus,
"Burial Custums in the Upper Main Nile: An Overview,"
pp. 57-73.
は、4千年紀からの埋葬方法の違いを概観したもので、多数の墓が図解され、参考になります。
B. Williams,
"A Prospectus for Exploring the Historical Essence of Ancient Nubia,"
pp. 74-91.
もまた、この地域における長い発掘の経験を生かし、墳墓形式の変遷を辿っています。
F. W. Hinkel,
"The Process of Planning in Meroitic Architecture,"
pp. 220-233.
は、主としてバダウィの理論をもとに建築平面を分析したもので、1キュービット=52.3cmをもとにした分割と8:5理論を展開していますが、より詳しい検討が待たれるところ。個人的には問題がある論考だという印象が強い。
T. Kendall,
"The Napatan Palace at Gebel Barkal: A First Look at B 1200,"
pp. 302-313.
は、オコーナーの考察に基づいて"Palace"を論じたもので、面白い考え方を展開しています。
最後にDaviesが大英博物館に収蔵されている関連の品を列挙しており、情報の公開に努めています。大英博物館ではエジプト部門が拡張され、エジプト・スーダン部門と名称が変更になりました。
エジプト学を少し拡げて考えようとする動きのあらわれと思われる一方、人文科学の分野にはもはや研究費が充分に回らなくなってきている背景も感じられます。